選択律

物理学化学における選択律(せんたくりつ、または選択則選択規則)とは、2つの量子状態間の遷移が許される(許容である)か禁じられているか(禁制であるか)を簡潔に示した規則のことである。

遷移確率

ある量子状態i に相互作用 H ^ {\displaystyle {\hat {H}}'} が働くと、別の量子状態f への遷移が可能となる。相互作用が小さい場合は、その遷移確率Wi→fフェルミの黄金率で表される。

W i f = 2 π | f | H ^ | i | 2 δ ( E f E i ) {\displaystyle W_{i\rightarrow f}={\frac {2\pi }{\hbar }}|\langle f|{\hat {H}}'|i\rangle |^{2}\delta (E_{f}-E_{i})}

よって行列要素 f | H ^ | i {\displaystyle \langle f|{\hat {H}}'|i\rangle } が値をもつかどうかで、その遷移が可能であるかどうかが決まる。

電子遷移

電子の光吸収発光は、電子光子相互作用によって起こる1光子過程である。この1光子過程の相互作用は、電気双極子遷移 (E1) の項、磁気双極子遷移 (M1) の項、電気四極子遷移 (E2) の項などの和として表すことができる。

電気双極子遷移の選択律

ウィグナー=エッカルトの定理を使って次のような選択律が得られる。

Δ j = 0 , ± 1 {\displaystyle \Delta j=0,\pm 1}
Δ m = 0 , ± 1 {\displaystyle \Delta m=0,\pm 1}

しかし次のような場合は例外的に禁制である。

j = 0 j = 0 {\displaystyle j'=0\to j=0}
m = 0 m = 0 ( Δ j = 0 ) {\displaystyle m'=0\to m=0\quad (\Delta j=0)}

さらにLS結合を仮定すると、次のような選択律になる。

Δ L = 0 , ± 1 {\displaystyle \Delta L=0,\pm 1}
Δ S = 0 {\displaystyle \Delta S=0}

しかし次のような場合は例外的に禁制である。

L = 0 L = 0 {\displaystyle L'=0\to L=0}

これをそれぞれラポルテ選択律スピン選択律と呼ぶ。

ラポルテ選択則
電気双極子遷移は、量子状態のパリティ(偶奇性)が遷移前後で変化しなければならない。
スピン選択則
遷移の前後で、スピン多重度が同じでなければならない。

磁気双極子遷移の選択律

電気双極子遷移のときと同様に、ウィグナーエッカルトの定理を使って次のような選択律が得られる。

Δ l = 0 {\displaystyle \Delta l=0}
Δ j = 0 , ± 1 {\displaystyle \Delta j=0,\pm 1}
Δ m = 0 , ± 1 {\displaystyle \Delta m=0,\pm 1}

しかし次のような場合は例外的に禁制である。

j = 0 j = 0 {\displaystyle j'=0\to j=0}
m = 0 m = 0 ( Δ j = 0 ) {\displaystyle m'=0\to m=0\quad (\Delta j=0)}

さらにLS結合を仮定すると、次のような選択律になる。

Δ L = 0 , ± 1 {\displaystyle \Delta L=0,\pm 1}
Δ S = 0 {\displaystyle \Delta S=0}
Δ J = 0 , ± 1 {\displaystyle \Delta J=0,\pm 1}

電気四極子遷移の選択律

電気双極子遷移のときと同様に、ウィグナーエッカルトの定理を使って次のような選択律が得られる。

Δ l = 0 , ± 2 {\displaystyle \Delta l=0,\pm 2}
Δ j = 0 , ± 1 , ± 2 {\displaystyle \Delta j=0,\pm 1,\pm 2}
Δ m = 0 , ± 1 , ± 2 {\displaystyle \Delta m=0,\pm 1,\pm 2}

しかし次のような場合は例外的に禁制である。

j = 0 j = 0 {\displaystyle j'=0\to j=0}
j = 1 / 2 j = 1 / 2 {\displaystyle j'=1/2\to j=1/2}
j = 0 j = 1 {\displaystyle j'=0\to j=1}

さらにLS結合を仮定すると、次のような選択律になる。

Δ L = 0 , ± 1 , ± 2 {\displaystyle \Delta L=0,\pm 1,\pm 2}
Δ S = 0 {\displaystyle \Delta S=0}

振動スペクトル

詳細は「赤外分光法」および「ラマン分光法」を参照

赤外分光法では、振動によって電気双極子モーメント μ {\displaystyle \mu } が変化することが許容条件である。

ラマン分光法では、振動によって分極率が変化することが許容条件である。