フェイルノート

フェイルノートFailnaught)は、アーサー王伝説に登場する円卓の騎士の一人トリスタンの弓。

フェイルノート(英語: Failnaught)という表記は、『トリスタンとイゾルデ』のジョゼフ・ベディエ(英語版)[1]編集版(1900年)の英語訳(1905年)にみられる[2][3]。ベディエによるフランス語原文では l'arc Qui-ne-faut (アッキヌフォート?[4])という表記となっている[5]佐藤輝夫による日本語訳では《無駄なしの弓》と訳出されている[6]

l'arc Qui ne faut という表記は、12世紀に書かれたベルール版『トリスタン』にもみられる[7]。新倉俊一による日本語訳では「必中の弓」と訳出されている[8]

ベディエ版では、トリスタンがイズーと共にモロアの森に隠れ住んでいる場面で登場する。追手がトリスタンや従士ゴルヴナルに返り討ちにされ続け、森に足を踏み入れる者が居なくなってきた頃、トリスタンはフェイルノート(無駄なしの弓)と云う弓を作り、それは相手が人間であろうと獣であろうと、狙い定めた場所に必ず当たる弓であったと語られている[9][5][10]

ベルール版でも登場する場面は同様であるが、普通の弓というよりは弓を組み込んだ狩猟のように描かれており、弓の名前とも罠の名前ともとれるような表現となっている[11]

脚注

  1. ^ ジョゼフ・ベディエについては以下を参考:神澤榮三. "ベディエ". 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2023年6月7日閲覧ジョゼフ ベディエ. コトバンクより2023年6月7日閲覧
  2. ^ Bédier & Belloc 1905, p. 9.
  3. ^ Bédier & Belloc 1913, pp. 97, 106, his bow "Failnaught"
  4. ^ 「アッキヌフォート」の表記は以下の文献にみられる:“無駄なしの弓 l'arc qui ne faut フェイルノート - ケルト,フランスの神話・民話”. 幻想世界神話辞典 (2009年10月21日). 2023年6月18日閲覧。(発行日は更新履歴を参照した。)
  5. ^ a b Bédier 1900.
  6. ^ ベディエ & 佐藤訳 1985, pp. 121, 131, 132, 144. 二重山括弧《》囲みは原文ママ。
  7. ^ Béroul, Muret & Champion 1922, 1752行目、1763行目、1781行目.
  8. ^ 新倉訳 1990, pp. 195, 196(1752、1763、1781行目) 鉤括弧「」囲みは原文ママ。
  9. ^ Bédier & Belloc 1913, p. 97.
  10. ^ ベディエ & 佐藤訳 1985, p. 131.
  11. ^ 新倉訳 1990, pp. 195–196(1751-1773行目)

参考文献

  • ジョゼフ・ベディエ 著、佐藤輝夫 訳『トリスタン・イズー物語』岩波書店岩波文庫〉、1985年。ISBN 9784003250310。 
  • 新倉俊一 訳「ベルール『トリスタン物語』」『フランス中世文学集1 信仰と愛と』白水社、1990年、149-268頁。ISBN 4-560-04600-X。 
  • J. Bédier H. Belloc訳 (1913). The Romance of Tristan & Iseult. London: George Allen & Company. https://archive.org/details/cu31924027412604  - (プロジェクト・グーテンベルク版)
  • J. Bedier (1905-08-24). “The Romance of Tristan and Iseult - VII. THE CHANTRY LEAF. / SECOND PART. I. THE WOOD OF MOROIS.”. The Mirror. 15. pp. 8-9. https://archive.org/details/sim_reedys-mirror_1905-08-24_15_28. 
  • ウィキソース出典 “9” (フランス語), Le Roman de Tristan et Iseut, ウィキソースより閲覧。 
  • ウィキソース出典 “Tristan” (フランス語), Tristan (Béroul, éd. Muret), ウィキソースより閲覧。 

外部リンク

  • Tristan | Arlima - Archives de littérature du Moyen Âge (フランス語) - ベディエ版を含む『トリスタンとイゾルデ』に関する写本・校訂版・翻訳・研究などの文献リスト